コロナウィルス、タイ経済に追い打ち

コロナウィルス、タイ経済に追い打ち

 タイでは、昨年は貿易戦争のあおりを受けて自動車や電子部品の生産・輸出が停滞してほぼ5年ぶりの低成長となった。

 本年入り後もコロナウィルスの感染問題で観光収入が打撃を受けるほか、政争の影響で予算成立が遅れていることも加わって低成長を余儀なくされそうである。

 先月発表された2019年10~12月の実質GDPは前年比+1.6%とほぼ5年ぶりに1%台の低成長となった。10~12月における成長寄与度をみると、輸出-2.6%(前期+0.4%)と消費+1.9%(同+2.6%)の減退が大きい。

 なお2019年通年での実質GDP成長率も、前年比2.4%と前年、前々年の4%台から減速が著しく、2014年(+1.0%)以来の低成長となった。

 GDP構成比の67%を占める最大の需要項目である輸出はバーツ高、米中貿易戦争のあおりを受けた世界貿易の大幅鈍化の影響が大きく響いた。輸出の15%を占める自動車の輸出が大幅に減少した。

 ちなみに自動車生産は2019年通年で前年比-7.1%の201万3,710台にとどまり、輸出は通年で105万台(前年比-7.6%)にとどまった。その他の輸出をみても、自動車と並び輸出全体の15%を占める電子機器がハードディスクドライブ(HDD)などの減少から、また農産物も干ばつの影響から減少を強いられた。

 個人消費は自動車販売が高水準の家計債務や金融機関によるローン審査の厳格化などから前年割れとなっているのが目立つ。設備投資については高架鉄道(BTS)や地下鉄(MRT)などの都市交通やインフラ整備投資が下支えしたものの、自動車を含む製造業全般の投資が低水準に推移した。

 政策当局の対応をみると、タイ中銀は政策金利を19年中に2回、さらに今年2月5日にも0.25%引き下げ、史上最低となる1.0%まで引き下げた。

 一方で、政府も低所得者に対する給付金増、小規模農家への給付金支給、投資刺激策(機械設備購入にあたっての法人税控除等)など矢継ぎ早に手を打った。しかしながら、景気の回復には目立った効果を上げていない。

 足元の1~3月の景気にはさらに下押し要因が加わっている。

 第一にコロナウィルス感染への懸念から観光収入が大幅に低下する見通しであることだ。タイはGDPの2割を観光業が占めている。昨年のタイへの観光客は3,980万人、このうち中国からの観光客数は1,099万人と全体の28%を占める最大の顧客層である。

 この中国人観光客が激減しているため、政府も中国、インド人などに対するビザ手数料の無料化措置の延長などの奨励策を取っているものの、観光収入がガタ減りになるのは必至である。このほか、中国関係では中国での生産、消費の停滞が中国向け輸出の減少につながることも大きい。

 第二には不安定な政権構造の下で2020年予算(2019年10月~2020年9月)の執行が大幅に遅れていることだ。

 タイでは2014年5月のクーデター以降、陸軍司令官を務めていたプラユット氏が5年にわたり暫定首相を務める軍政が続いていた。

 2019年3月にようやく民政移管を図る総選挙が行われたが、第一党はタクシン元首相を支持する「タイ貢献党」が136議席で第一党、軍政派の「国民国家の党」が116議席で第二党にとどまり、両党とも会員500議席の過半数に大きく達しなかった。このため、軍政派は少数政党18党と連立して254議席と辛うじて過半数を獲得した。

 しかし、国防関連予算が全体の15%を占める内容に与党の間からも異論が出たうえ、採決時に代理投票が発覚していまだに予算執行ができないでいる。

 予算不成立の中で、義務的経費(人件費などの固定費)の支出は前年度予算の半分を上限に支出が可能となっているが、総額400億バーツの建設プロジェクトが未払いになるなど、景気に悪影響を与えている。

 タイ経済の再生のためには、コロナウィルス感染症の終息、国家予算執行の加速、安定政権基盤の確立など課題が多い。少なくともしばらくは低成長を余儀なくされよう。

 ちなみに国家経済社会委員会も2020年の実質成長率を+1.5~2.5%と昨年11月時点の見通し(+2.7~3.7%)から大幅下方修正をしている。 俵 一郎 (国際金融専門家)

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